【純愛 恋愛ファンタジー小説】 千の希望 第八話 「ブラックとお買い物」

千の希望 ラノベ小説

 新しい街にも慣れてきたコール達は、久しぶりに外食をしようと、みんなで朝食を食べに外に出ていた。
「クリアー」
 歩いている途中、フィックスは少し離れた位置に居たクリアーに声をかけた。
「何?」
 クリアーは呼ばれて、フィックスの元に駆け寄った。
「旅の資金とかもかかるから、今日から日雇い労働探そうと思うけど、お前って働けんの?」
「え? カレンさんの仕事のお手伝いはしてたけど」
「そうだったのか。お前、村でずっと何もしてなかったのかと思ってた」
「えええ」
「村に居た時は男だと思ってたし、カレンと付き合ってて、カレンにずっと金出させてたのかと……」
「違うよ! 一応お給料ももらってたけど……でもお仕事ってカレンさんのお手伝いしかした事ないよ」
「じゃあ社会見学も含めて、お前もなんか労働するか?」
「うん!」
 クリアーができそうな仕事を、フィックスは考えてみた。
「接客は……口下手だし無理だよな……力あるから……やっぱ肉体労働か」
「頑張る!」
「まあ、いきなり働くのもなんだし、色々考えてみろよ。とりあえず今日は買い出し頼むわ」
「うん! あ! 猫がいる! コール猫だよ!」
「うん」
 目の前を、白い毛並みの猫が、ゆっくりと移動していた。
「ボク猫好きなんだ!」
 コールとクリアーは猫に近づいた。
「ニャー」
 クリアーに向かって猫が鳴くと、クリアーも声を真似して猫に返した。
「にゃー」
 その時の表情は、つられたのか、猫と同じような表情をしていた。
(ふふ……クリアー、猫とおんなじ顔になってる)
 コールとクリアーが猫と遊んでいる間に、ブラックはフィックスの財布を掏った。
「わー☆ 棒兄ちゃん金持ち☆」
「お前、何掏ってんだよ!」
「違うよー、財布が俺様の手に飛び込んできたんだよー☆」
「んなわけあるか! イタズラすんな! てかお前泥棒すんなって約束しただろ!」
「はい☆」
 ブラックは掏った財布を差し出し、フィックスはそれを乱暴に取り返した。
「技術は使ってるけど返したんだから、泥棒はしてないでしょ☆ キャッチアンドリリースよ☆」
「コイツ……」
「にゃはは☆ でも金かなりあるじゃん☆ 働かなくて良くない?」
「そりゃ旅してんだから、働かなくても良いくらいの金は、ある程度持ってきてるけど……お前みたいのに盗られる可能性もあるし、自分を常に働ける状態にしておくほうが良いからな」
「立派ー! さすが棒兄ちゃん!」
「昔はダラダラ過ごしてて、働いたら負けくらいに思ってたけどな。守りたいもんとかできるとさすがになー」
 フィックスは頭をかきながら話した。
「へー」
(二人、大事にされてるなー)
「コールは十五の時から旅しながら、その時その時の街で労働して暮らしてたらしいけど」
「すご! 適応力が高いね」
「まあ、そうじゃなきゃ生きられなかったろうからな。あいつには幸せになってほしい」
「すっかりお兄ちゃんだね☆」
「一人っ子だけど、昔からなんか世話焼きなんだよなー……てか、お前はどうなんだよ」
「え?」
「普段どうやって生活してたんだ? 泥棒で??」
 そう言われて、ブラックは手を頭の後ろで組み、フィックスに答えた。
「泥棒って大変だから滅多にやらないよねー、下見とか計画立てるのがー。基本は自給自足、森で木の実とかの食べ物とったり、川で洗濯とか体洗ったり。寒い時期はさすがに宿使うけど、森で手に入れた薬草や果物なんかを売ったりして金もらったり、それで街で買い物する事もあるよ☆ 結構高値で売れるからね☆」
「野生児か……てかお前の方が適応力高くね??」
「どうかなー☆ じゃあダラダラ生きるから、棒兄ちゃん一生俺様の面倒みてー☆」
「見れるか!!」
「にゃはは☆」
 思ったよりもブラックが泥棒をしていない事に、フィックスは少し安堵した。

 朝食後、フィックスとコールは街で荷物運びの仕事を見つけ、さっそく働きに出る事になった。
「じゃあ、俺達行ってくるけど、クリアーは一人で買い出し大丈夫か?」
「うん!」
「結構量あるぞ?」
「大丈夫だよ!」
 過保護故に、少し不安そうな表情のフィックスを見たブラックは、近づいて声をかけた。
「なら俺様も行こうか?」
「え?」
「女の子に重い物色々持たすのはねー☆」
「? あれ? そういえば俺達……ブラックにクリアーが女だって言ったっけ??」
 それを聞いて、首を左右に振るコールとクリアー。
「あ、風呂上がりとか、サラシ付けないからか……」
「え? それもあるけど、そもそも見たら最初からわかんじゃん☆ 俺様、崖の上で棒兄ちゃんとクリアーちゃんと対峙した時、去り際に、美人さんーって言ったでしょ?」
「あの時もう気づいてたのか??」
「うん☆」
「やっぱ野生児……てか、俺は五年間女ってわかんなかったぞ!?」
(混乱する事はあったけど)
 コールもそれについて口を開いた。
「オレも……ハッキリとは……」
「えー? だってさー」
 ブラックはクリアーに近づき、腰を抱いた。
「わ!」
「腰とか」
 続いて人差し指で、クリアーの顎を持つ。
「首とかさー、見たらわかるじゃん?」
 クリアーの腰を抱き、顎クイしているブラックに対し、フィックスは激しく動揺した。
「クリアーに触るなっ!!」
「へいへい☆」
 ブラックがクリアーをそっと離した瞬間、フィックスは大きな足音を立てながらブラックに近づき、怒鳴った。
「俺別に、お前をまだ信用はしてねえからな!!」
「えー? ひどーい☆」
「元泥棒なわけだし……流れで一緒にいるけどさ……」
「じゃあ信用してもらう為にも、クリアーちゃんと買い物してくるよ☆」
「なんでそうなる!」
 ブラックの軽い態度に、フィックスの怒りがなかなか止まらない。
「仕事の時間大丈夫?」
 クリアーに言われて、フィックスはやっと我に返った。
「あ! そろそろ行かないとヤバい! 短時間の仕事で早く帰るし、ブラック! お前は買い物ついてかなくて良いからな!」
「じゃあ、クリアー、ブラックさん、いってきます」
「コール、フィックス、いってらっしゃい!」
「いってくる!」
「いってらっしゃーい☆」
 仕事の時間が迫り、フィックスとコールは急ぎ足で部屋を出て行った。ブラックは残されたクリアーを見つめ、笑顔で言った。
「じゃー行こうかクリアーちゃん☆」
「え!? フィックスがブラックは行かなくて良いって……」
「俺様は俺様の好きにするから☆」
「えー……」
「まあ良いじゃん☆ 早く買いに行かないと時間なくなるよ☆」
(良いのかな??)
 ブラックはクリアーの手を取り、急かすように続けた。
「早く早くー☆」
「待ってブラック! 荷物入れるカバン持ってかないと」
「あ! そうだね☆」
 二人は肩掛けのカバンを持って、宿を出た。

 晴れた街を、ゆっくりと歩きながら、世間話をしつつ、ブラックとクリアーは食料の買い出しをしていた。
「へー、旅人ってみんな毎回外食ってわけじゃないんだね」
「宿で台所借りれるから、節約したい人は自分で作るんだよ」
「便利だねー☆」
「旅人が多くて経済が回ってるから、城が宿屋にお金を補助してて安全に利用できるってフィックスが言ってたよ。大きい宿屋には食堂と借りれる台所と洗濯場とお風呂となんでもあるもんね。警備も何人か雇ってて、宿の中の治安も良いし」
「俺様、泊まるとしても小さい激安宿しか泊まらないからなー」
「小さいとこは城の補助受けてないとこがほとんどらしいから、お風呂と洗濯場くらいしかないよね」
「へー☆」
(クリアーちゃん一生懸命説明してて、かわいいな☆)
 知らないフリをして聞いているが、実はブラックは全部知っていた。
「てか、部屋ってクリアーちゃんと男共は別々だよね?」
 いつも宿では、クリアーは一人部屋で、コールとフィックスとブラックは同じ部屋に泊まっていた。
「仲間なんだし、みんな同じ部屋のが金浮くのにさ」
「フィックスが……女が男と同じ部屋に泊まるなって」
「にゃはは☆ 過保護ー☆ お父さんじゃん! 知らない男女で泊まるわけでもないのに☆」
「フィックスは最初会った時以外は、ずっとあんな感じだね」
 妙な言い方のクリアーに、ブラックは聞き返した。
「最初会った時以外?」
「!! いや! なんでもないよ!!」
「なにー? なになになにー??」
 ブラックはクリアーに近づき、慌てた顔をじっと見つめた。
「いや……最初に会った時は、いきなり付き合ってって言われて……」
「え? 棒兄ちゃんクリアーちゃんが好きだったの?」
 クリアーは少し照れた様子で続けた。
「一目惚れ?? みたいな事言ってたけど……」
(やっぱ好きなんじゃん!)
「今は??」
「ボクがその時、迫ってくるフィックスが怖くて、自分は男だって嘘言ったんだけど……その言葉を信じて男として五年間見てたから、今はもう好きじゃないって」
(ホントかなー? 見てる感じ、絶対好きじゃん……好きじゃないって思いたいだけじゃないのかなー??)
 納得いかないブラックは、口を尖らせて返事をする。
「ふーん」
「ブラックは付き合った事とかあるの?」
「俺様この容姿だからめちゃくちゃモテるんだけど、恋愛はよくわかんなくてねー、付き合った事はないんだよー☆」
「そっかー」
「付き合った事はないけど、昔荒れてて、実は経験は豊富なんだけどね☆」
「え??」
(あ……女性慣れしてるから……ボクが女だってすぐわかったのかな?)
 急にブラックは歩いている足を止め、地面を見つめた。
「……それに……恋愛って難しいしさ……今は……お休み中……かな……」
 さっきまでの笑顔はなくなり、小さな声で寂しそうに言った。
(なんか寂しそう……昔何かあったのかなあ……)
 笑顔を戻し、クリアーを見つめ、ブラックは続けた。
「クリアーちゃんは?」
「ボクもないよ。ブラックと同じで……恋愛ってよくわかんないし……」
「一緒に居て、ドキドキする人とかいないの?」
「え?」
 その時、クリアーの頭の中に、コールの顔が浮かんだ。
(なんで……コールの顔が……)
「い! いないよ!!」
 慌てるクリアーを見て、ブラックはピンときた。
(いるな、これ……まあ、見てる感じ、コールくんかなー)
「頑張ってねー☆」
「違うから!! ちょっとブラック!」
「にゃはは☆ あ! クリアーちゃんあれ食べない??」
 ブラックが指さした先には、焼き菓子の店があった。
「うん!」
「俺様、結構甘い物好きなんだけど、男ってなぜか苦手な人が多いんだよねー☆」
「フィックスもコールも甘いのあんまり食べないね。コールは果物は好きだけど」
「よし! 買っちゃおう!」
「うん!」
 二人は甘いお菓子を買って、店の外に用意してある、四人掛けの長椅子に座って食べる事にした。
「「いただきまーす」」
 そう言うと、同時にお菓子にかぶりついた。香ばしい香りと甘味が、口いっぱいに広がる。
「美味しい!」
「うまーい☆ こういう日も良いね☆」
「そうだね!」
 甘くて美味しいお菓子をほおばりながら、二人は笑顔で見つめ合った。
(ブラックって泥棒だったわりに、あんまり悪い感じないんだけど……なんで泥棒になったんだろう……)
 もぐもぐと嬉しそうにお菓子を食べるクリアーの隣で、ブラックは遠くを眺めながら、真剣な顔をしていた。
「……ねえクリアーちゃん」
「ん?」
「もし俺様が大富豪の息子で……実はいくらでも金持ってるって言ったら……どうする?」
「え??」
 ブラックは、いつもの陽気なニコニコした笑顔とは全く違う、真剣な表情で、クリアーをじっと見つめた。その目には、少しだけ不安も混じっているようだった。
「ど……どうもしないけど??」
「!」
 どうもしないという答えに、驚きながらも嬉しそうな表情のブラックに、クリアーは質問の意味もわからず、混乱していた。
「??」
 ブラックはまた無邪気な笑顔に戻り、クリアーに言った。
「クリアーちゃん良い子だね!!」
「え??」
「そっかそっか☆ ……しかし……」
「?」
 クリアーに顔を近づけ、ブラックは凝視した。
「近くで見ると、クリアーちゃんホントびっじんだねー」
「!?」
「俺様も綺麗って言われるけど……やっぱ女の子には勝てないなあー」
 ブラックはクリアーにさらに近寄り、顔をまじまじと見た。
「ちょ……」
 あまりにもじっと見られ、クリアーは照れてしまった。
「肌も綺麗ー」
 クリアーのきめ細かな白い頬に、ブラックは優しく触った。
「!」
 急に触れられて、クリアーはビクッと体を動かした。次の瞬間、何かが勢いよく飛んできたが、ブラックはそれをさっと避けた。飛んできたものを見ると、地面には丸めたタオルが落ちていた。
「なんだ??」
「ブラック!!」
「ん? 棒兄ちゃん、もう仕事終わったの?」
「ダッシュで終わらせたわ!! てかコイツに触んな!!」
 勢いよく走ってきて、ブラックとクリアーの間に、フィックスは入り込んだ。
「わっ! フィックス……ボク大丈夫だよ?」
「……」
 フィックスはブラックを強く睨みつけた。
(てか……これって棒兄ちゃん……ヤキモチじゃない??)
 唸り声が聞こえてきそうなほど、フィックスはブラックを睨んだ。
(今はもう好きじゃないって言ってたらしいけど、これ仲間にって感じじゃないよね? どう見ても、男としての威嚇でしょ……やっぱ……自覚ないだけじゃん!)
「ぷっ! あっはっは!!」
「な! 何笑ってんだよ!?」
(こんな大好きなのに、気づいてないとか!)
「いやー☆ 棒兄ちゃん、かわいいなって思ってー☆ あはは!」
「はあ!?」
 ブラックは腹を抱えて笑った。
「フィックスはたまにかわいいとこあるよ!」
「クリアーまで!?」
 笑い過ぎて出た涙を指で拭いながら、ブラックは言った。
「いやー☆ やっぱ良いね! 棒兄ちゃん☆」
(クリアーちゃんには気になる人がいるみたいだけど、棒兄ちゃんは応援してあげたくなるな!)
 フィックスの肩を叩きながら、ブラックは続けた。
「俺様、応援したげるからね☆」
「何の話だよ!?」
「ボクもわかんない」
「てか、ブラックは行かなくて良いって言ったのに……はあー……ちゃんと買い出ししたんだろうな?」
「はい☆」
 ブラックは買い出しの中身の入ったカバンを、フィックスに渡した。
「……おい! 頼んでない物がいっぱいあるんだけど!?」
「美味しそうだったから☆」
「え!? いつの間に!?」
「クリアーちゃんが会計してる間に☆」
「無駄遣いすんな!! お前はもう二度と買い物にはついて行くなっっっ!!」
「にゃはは☆」
 この一件で、ブラックは買い出し禁止となり、家事は掃除担当になったのだった。

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