【純愛 恋愛ファンタジー小説】 千の希望 第四話 「再会」

千の希望 ラノベ小説

 『千の力』を与えた者に頼まれ、新たな目的の為に旅を続ける事となったコール達は、ようやく次の街に到着した。

「やっと街についたね!」
 クリアーが元気に言うと、フィックスは弱弱しい声で答えた。
「あー疲れた……崖から落ちたケガはあの時完治したけど、ここまで遠っ!」
 崖から落ちたせいで、コール達は、かなり遠回りを強いられたようだった。
「そういえば不死鳥って名前は?」
「ぼくの名前? ないからつけて!」
 フィックスが不死鳥を観察すると、頭に特徴的な三本の毛が見えた。
「けー三本、で良いんじゃね?」
「適当すぎるよフィックス…………あ! じゃあ一二三ひふみちゃんは?」
「ひーふーみーか、良いんじゃね? 呼びやすくて。結局毛だけど」
 気に入ったのか、不死鳥が嬉しそうに答える。
「名前ありがとう!」
一二三ひふみちゃん!」
 クリアーと一二三ひふみは命名を喜び合った。フィックスはクリアーを見つめたあと、一二三ひふみに声をかけた。
一二三ひふみ、『千の力』の継承だけど」
「ん?」
「それって失敗する事ってあんのか?」
 フィックスの質問に、一二三ひふみは即答した。
「あるよ! 相手の意志が弱かったり、方向が違ったりすると継承できないよ」
「方向?」
「人を救いたいって人が、人を苦しめたいって意志の人には継承できないの。その逆もね」
 フィックスは顎に手を添えて考える。
「そっか……クリアーもいつか誰かに継承しねえと、使い続けたら寿命がきちまうよな……」
「フィックス……」
「誰かクリアーから継承できる奴を探さないと」
 それを聞いて、クリアーは目を大きくしてフィックスをじっと見た。
「は?! 俺は無理だぞ!! お前みたいに全人類誰でも命かけて救いたいなんて思えねえし!」
「でも落ちた時助けてくれたじゃない!」
「あれは! ……お前だったからだ……仲間は……大事にすんだろ。俺はコールやお前みたいに、見ず知らずの相手に命投げ出すなんてできねえよ! 護衛の仕事だって、危なすぎるのは断ってるし……俺は、仲間とか、好きな相手しか救いたいなんて思わねえもん!」
 声を荒げるフィックスをクリアーは無言で見つめた。
「……」
「それに、仮に俺が途中で誰でも救いたいって気持ちになれたとしても、意志が弱くて失敗して、その結果クリアーを失うなんて、絶対にごめんだ!!」
 より強い口調でフィックスは叫んだ。
「フィックス……」
「……だから継承者に……俺は諦めてくれ……」
 自分を心配するフィックスの気持ちを理解し、クリアーは答える。
「うん……フィックスが嫌なら……」
「嫌って言うか……」
 これ以上の言葉が出ず、二人はしんとしてしまった。その状態を見かねたコールが話しかける。
「……あ! 街についたし宿を取りましょう」
「ボ……ボク宿探す!」
 速足でクリアーは前に出た。
「おい! クリアー先行くな! 迷子になるぞ!」
「ならないよ!」
「どうだか!」
 そんな二人を見つめ、コールは思った。
(フィックスさん、クリアーの事、すごく大事なんだな……) 
 その時、顔の片側を髪で隠した、金髪で長いポニーテールの男が、コールとすれ違った。
「!!」
 コールは勢いよく振り返り、相手を見る。
「あの人……は……」
 男はコールには無反応で、そのまま通り過ぎて行った。
「コールー、どうしたのー?」
 クリアーがコールの様子が気になり、遠くから声をかけるが、コールは胸を押さえ、呼吸は粗くなっていた。
「あ……えっと、ちょっと先に宿に行ってて良いかな?」
 クリアーはコールに駆け寄った。
「大丈夫? 体調悪くなった?」
「大丈夫、ごめん」
 そう言うと、コールは走ってどこかへ行ってしまった。
「コール……?」
「どうしたんだ? あいつ……」

 コールは走りながらさっきの人物を探すが、見つからなかった。
「くそっ! 居ない! 見間違うはずない……まさか再会するなんて……」
「コール? 何かあったの?」
 様子を心配した一二三ひふみが、飛びながら現れた。
一二三ひふみ……いや……なんでもないよ……」
 一二三ひふみはコールの肩に止まると、じっとコールを見つめた。

 フィックスとクリアーは、宿に向かいながら、通り道の店などを見ていた。
 道の途中、クリアーは美味しそうな果物を見つけると、フィックスの袖を引っ張った。
「フィックスー、あれ買おうー」
「そんなに腹減ってたのか? 宿取ったら飯行くって」
「違うよ、コールに買ってくの!」
 クリアーが果物を取ろうとした時、近くに居た男が、驚いたような声を出した。
「クレア……?」
「え?」
 声のする方をクリアーが見ると、そこには、さっきコールとすれ違った、金髪の男が立っていた。
「クレア!!」
 男は興奮した様子で、クリアーを強く抱きしめた。
「え!?」
 フィックスは危険を感じ、男の肩を掴む。
「何やってんだこの痴漢野郎!!」
 男からクリアーを引き剥がし、睨みつける。
「びっくりした……」
 驚いているクリアーの横で、むっとした表情の金髪の男が、三白眼の鋭いつり目でフィックスを見る。
「痴漢とは失礼な……」
「失礼なのはお前だ! 名を名乗れ!」
「私はロスト、クレアの…………恋人だ」
「はあああ!?」
 突然の爆弾発言に、大声を出すフィックス。そこに仲間と思われる女性が現れる。
「もー、ロスト様嘘ばっかり! 恋人じゃないでしょ。私はリーフ、ロスト様の彼女です★」
 ピンクでウェーブのかかったボブヘアに、少しつり目の、色白な可愛らしい雰囲気の女性がそこに居た。そんなリーフの発言にロストは眉をひそめた。
「リーフこそ嘘を言うな。クレアに誤解される」
「えへ★」
 そこへもうひとり、仲間の男がやってくる。
「……ロスト様……何をしてるんですか……」
「スロウ」
 その男は、女性かと見間違うほどの華奢な体に、銀髪のマッシュヘア、色白できめの細かい肌と、眠そうな目をしていながらも、大きいとわかる瞳に、長い下まつげが特徴の、一見、美少女にも見える美形の男性だった。
(なんだこの美形ども!? てかクレアって、クリアーの事か?)
 フィックスが疑問に思っていると、ロストがスロウに興奮気味に話し出した。
「スロウ……クレアが生きていた……」
「え……」
 スロウは近づいて、クリアーの顔をまじまじと見た。クリアーは知らない人に見つめられて、緊張している。
「な……何……?」
「この人があの……。まあ……こんなに綺麗だったら……好きになるの……わかるかも……」
「え!?」
 急に綺麗だと褒められ、クリアーは顔を赤らめた。
「俺も……タイプです……」
 スロウはロストに向かって親指を立てた。
「クレアはダメだぞ、私のだからな」
 私のだと言うロストに混乱するフィックスは、思わず声を出した。
「は!?」
 そこへリーフがスロウの横へ行き、話しかける。
「私はー?」
「リーフも可愛いけど……俺の……タイプじゃないから……顔は……そんなに……たれ目の……清楚な子が……スキ……」
 クリアーはかなりの垂れ目で清楚でもあった。
「釣り目で悪かったわね!!」
「悪くないよ……好みの……問題……」
 自由に話す三人を呆然と見ていたクリアーは、我に返り、相手に質問をした。
「え……もしかして、ボクの……過去の知り合い?」
 その言葉に、ロストが反応する。
「過去?」
「あんた、クリアーの知り合いなのか?」
 フィックスはロストを見つめた。
「……そうだ」
 ロストのその言葉に、クリアーの表情がぱっと明るくなった。
「はじめて知り合いに会えた! ロストって言ったね! ボク、五年前に記憶を無くして、自分がどこの誰かわからなくて、ボクの事、教えて欲しい!」
「五年前……」
 その時ロストは、クリアーの胸の赤い宝石に釘付けになった。
「その胸の宝石は……」
「え? 記憶喪失で目覚めた時に、大事に持ってて……ずっと付けてるんだけど」
 それを聞き、ロストは目頭を押さえ、感動している様子だった。
「……なんて事だ……記憶を失っていても……それをそんなに大事に……」
「?」
「嬉しいぞ、クレア」
 ゆっくりと、またロストはクリアーに抱きついた。しかしフィックスがすかさず二人を引き剥がす。
「おい!!」
(なんだこいつ? ただの知り合いにしては行動が明らかにおかしいぞ??)
 その時、近くにある壁の向こうで、ケンカが起きていた。
「ケンカ?」
 男二人が言い争って、掴み合いに発展しようとしているようだ。
「おい、やめろ! そこの壁もろくなってて危ねえから!」
 片方の男が言うのを無視し、掴みかかった。
「うるせー!」
 それを聞いていたロストは、左手を前に出すと、そこから強い光が放たれた。
「え?」
 その光の周りには、不思議な黒いもやが同時に発生していた。
 掴み合いのケンカのはずみで、男二人がもろくなった壁にぶつかり、その壁がクリアーめがけて倒れてきた。
「やべ、逃げろ!」
 男二人は即座にその場から逃げ出した。
「クリアー!!」
 フィックスが叫んだと同時に、クリアーの周りにバリアが張られた。
「え?」
 事態が掴めないクリアーをよそに、ロストが『千の力』で壁を破壊する。
「な!! こいつ……『千の力』の持ち主だと!!」
「ふん……クレア……ケガはないか?」
「う……うん、ありがとう」
 クリアーのその言葉にホッとし、ロストに笑みが浮かぶ。
「良かった」
 優しいその笑顔を見て、クリアーは思う。
(あ、ボク、この人知ってる気がする……)
 それを見ていたフィックスは、驚きながらも、ある事に気づいた。
(こいつ、カウント消耗の激しいバリアを、クリアーに躊躇なく使った……しかも……カウント値が五桁だった……つまり……一万の力の持ち主……)
 周りを見ると、スロウも手をかざしていた。
「さすがロスト様……先読みして……『千の力』を出しておくなんて……発動に数秒かかるから……俺……間に合いませんでした……」
「いや、スロウもありがとう」
 ロストはそう言うと、スロウにも笑顔を向けた。
(このスロウって人も、『千の力』が使えるんだ……)
 クリアーはスロウの方を向き、お礼を言う。
「あ……あの……ありがとう」
「あ…………いえ……」
 お礼なんて言われると思っていなかったのか、スロウは少し照れているようだった。その反応を見たリーフがにやにやして言う。
「あらあらー?」
「何……」
 照れているスロウに、さらに、にやついて言うリーフ。
「恋の予感ー?」
「違うし!!」
 真っ赤になったスロウは、リーフの言葉を動揺しながら全力で否定した。
 そして、さっきの『千の力』の使用時に、気になる事があったフィックスが口を開く。
「でも、なんか光の中に黒いもやが、かかってなかったか?」
 その時、一二三ひふみが飛びながら、フィックス達の元に戻って来た。
「ぼくが説明するよ!」
一二三ひふみちゃん」
 それを見たロストが言う。
「鳥が話している……」
 疑問に思ったロストに、リーフは答えた。
「腹話術とかじゃないですか?」
「なるほど、腹話術を身につけるとは、さすがクレアだ」
 勝手に納得をされた一二三ひふみは、クリアーの肩に止まり、話し始めた。
「『千の力』は清らかな心の者が使うと、そのまま光だけが出るけど、汚れた心の者が使うと、光と共に黒いもやが発生するんだ。もやが黒ければ黒いほど、心が汚れている証拠なんだけど」
「真っ黒だったよな??」
 そう言ったフィックスを、ロストは不機嫌そうに見る。
「……」
「お前、悪人か?」
(『千の力』を与えている存在が言ってた、汚れた心で汚れた『千の力』を広めようとしてる奴か……)
 さらに一二三ひふみが言う。
「不安や恐れが強くても黒くなるよ!」
「不安?」
 フィックスのその言葉に、ロストは何かを考え、しばらく黙っていたが、クリアーを見て、大きな声で言った。
「……クレア! 私と行こう!!」
「え!?」
「前のように私と共に!」
「ロスト……」
 その時、後方から強い光が発生した。
「あ……コール!!」
 そこには、ロストの居る方向に左手をかざしたコールが立っていた。
「クリアー! その人から離れて!!」
「コール……」
 ロストはコールを見て、話しかけた。
「……誰だ、お前は?」
「!」
 ショックを受けている様子のコールは、悲しそうな顔で話し出す。
「覚えてないのか……そうだよな……あんな一瞬の出来事……あなたは覚えていないよな……」
 全く身に覚えがないようで、ロストは首をかしげている。
「?」
 その反応に、少し震えながらコールが続ける。
「オレはコール、……あなたが破壊した瓦礫に巻き込まれて……亡くなった男の息子だ!」
「「え?!」」
 クリアーとフィックスが驚く中、やはり身に覚えがない様子のロストが言う。
「……何の事だ?」
「……やはり……覚えていないんだな……」
 二人のやり取りに、フィックスがつぶやく。
「なんだ、コールとロストも知り合いなのか??」
 その時、強い光や音を出したせいで、街の者が騒ぎ始めた。
「さっきからあっちで、でかい音や強い光が起きてるぞー」
 人の足音が近づいてきたので、フィックスは焦った。
「やべ! 人が集まってくる!」
「ロスト様、一回逃げましょう!」
 リーフがロストに撤退を求める。
「……クレア……」
 ロストはクリアーを寂しげに見つめた。
「ロスト様……お早く……」
 スロウの催促にロストは顔をしかめるが、時間がない為、クリアーに大きな声で言った。
「……クレア! また会おう!」
 そしてそのまま、ロスト達は走って逃げて行った。
「ここに居たら壁壊したの俺らのせいにされかねないぜ! 俺たちも逃げるぞ!」
「う……うん!」
 クリアーは走りながら、今起きた事を、頭の中で整理していた。
(ロストはボクの知り合いで、コールとも知り合い……? でも、亡くなった男って……息子って事は……お父さんが亡くなったの??)
 走って逃げる途中、急に雨が降ってきた。
「わ!」
「荷物濡れると困るから、俺は先に宿行くから! 二人はそこで待ってろ」
 そう言うと、フィックスは雨をしのげそうなところを指さした。
「うん!」
 フィックスはそのまま、走って宿に向かった。クリアーはコールが気になり、振り返る。
「コー……」
 クリアーの目に飛び込んできたのは、雨に濡れ、曇った空を見て、雨なのか涙なのかは定かではないが、泣いているかのような、コールの姿だった。
「父さん……母さん…………」
 その姿を見たクリアーの胸に、何とも言えない不安が押し寄せてきた。
(コール……一体過去に……何があったの?)
 クリアーは静かなはずの雨の音が、とても大きく聞こえるような気がしていた。

千の希望 第一話~最新話 一覧

キャラクター