【純愛 恋愛ファンタジー小説】 千の希望 第二話 「選択」

千の希望 ラノベ
 登場人物紹介 

 コールの旅について行く事となったクリアーとフィックス。
 三人は『はくの村』から出て、森をしばらく歩くと、足場の良い、人の通りやすい歩道と思われる道を歩きながら、会話を始めるのだった。
「フィックス、村出てきて良かったの? ボクは元々村の人間じゃないから大丈夫だけど……」
 自分がコールについて行きたいと言ったせいで、フィックスに迷惑がかかっているのではないかと、クリアーは少し気にしているようだ。
「貯金はかなりあるし、特に問題ねえよ」
 お前は何も気にしなくて良い、と言わんばかりに淡々と話しながら、フィックスは荷造りをしていた時の、カレンとの会話を思い出していた。

『ホントにクリアーについて行ってくれるの?』
 カレンは少し不安そうな顔でフィックスを見ている。
『あんな危なっかしい奴、保護者無しに旅に出せるかよ……ある程度ウロウロしたら満足すっだろ』
 自分もどこかクリアーが心配なのか、少し乱暴に話すフィックス。
『クリアーと一緒に、絶対帰って来てよね……』
『了ー解。絶対帰ってくるから、村の事、頼んだぞ』
 最初の不安な気持ちは薄れたようで、元気な声でカレンは答えた。
『ええ!』

「保護者が居ねえと、カレンも心配すんだろ」
 ぶっきらぼうに言いながらも、結局みんなの心配をしているフィックスを見て、クリアーは笑みを浮かべた。
「ありがとうフィックス」
「良いよ別に……俺も最近仕事なくて暇だったし」
「フィックスお酒しか趣味ないもんね。護衛の仕事なかったらする事ないね」
「飲んだくれみたいに言うなよ」
 二人の会話を、微笑みながらコールは聞く。
「てかお前村の服で来たのかよ」
「この服気に入ってるから」
はくの村』では村人は皆、全身白の襟付きの服を着て過ごしていた。
「俺も持ってきてるけど、森とか長い道歩く時は汚れやすいから、白はやめたほうがいいぞ」
「大丈夫! 気を付けるし、それにこの服に付けてる赤い宝石、ボクが森で倒れてた時に大事に手に持ってたんだって。元はネックレスだったみたいだけど、他は壊れてたから……もしかしたらボクを知ってる人が見つけてくれるかもって、カレンさんが付けてくれて、宝石部分は洗濯時は取り外しできるんだよ!」
 胸元に付けた宝石を触りながら、嬉しそうにクリアーが話す。
「へー、てかお前荷物は?」
「え?」
 よく見るとクリアーは、ロッド以外何も持っていなかった。
「まさか身一つで来たのか!?」
 驚くフィックスに対し、帯の中から財布を取り出して、得意げにクリアーは言う。
「お金は持ってる!」
「バカかお前は!! はー…………」
 フィックスは大きなため息をつきながら続けた。
「そんな事もあるかもと思って、お前の分も色々持ってきて良かった」
 背負った大きな荷物を見ながら、フィックスは肩を落とす仕草をした。
「荷物多いと思ったら、ボクの分も入ってたの?」
「まあカレンに色々入れられたのもあるけど……俺がついてきて良かったな」
 少し恥ずかしそうに笑いながら、クリアーはお礼を言う。
「えへへ! ありがとうフィックス!」
 その笑顔と言葉に、フィックスも少し恥ずかしそうな表情で答えた。
「おう……」
 話がひと段落したところで、コールが話し始める。
「街に着いたら腕輪見て良いかな? 次行く街で昔買った物だったし」
「あー、クリアーが壊したっていう腕防具な」
 言われて焦るクリアー。
「ごめん! ボクが同じの弁償するよ!」
「大丈夫だよ! 元々壊れかけだったし……でも買い物は頼んでも良いかな? 次の街でヴェリアス陛下を護る為に『千の力』を使った事があって、陛下に顔見られてるから、見つかったら捉えられるかもしれなくて」
 次に行く場所は、『はくの村』から4キロ程度離れた場所にある、ヴェリアス王の『月の城』と城下町が混在する、大きな街だ。
「護ったのに捉えられるかもしれないのか?」
 それを聞いて、少し悲しそうな顔でコールが話す。
「良い人だったから大丈夫だと思ったんですが、力を見たら豹変しちゃって……なんとかあの時は逃げたんですけど」
「一応警戒はしておくか。てかコールさ」
「え?」
「見ず知らずのクリアーが旅に一緒に行きたいって言ってきて、よく承諾したよな」
「ちょっとフィックス!」
 焦ったクリアーを見ながら、コールは答える。
「ああ、なんかすごく必死だったので……」
「たしかに……なぜか涙目だったもんな……」
 言われて自分の行動を思い出し、クリアーは恥ずかしそうにした。
「あと、記憶喪失って大変そうだから、何か力になれればなって。一緒に旅をする事で、思い出すキッカケに出会えたりしたら良いなって思って」
 そのコールの気持ちに、フィックスは感心する。
「お前優しいなあ」
 コールの思いに、クリアーも無言で感動していた。
「いえ……」
 フィックスに一言返したあと、コールはクリアーをしばらく見つめた。なぜ見られているのかわからず、クリアーは首をかしげている。
「?」
(オレと同じ考えの人ってすごく少ないから、気になったのもあるけど……)
「オレももう少し、クリアーと一緒に居たいのもありますね」
 素直なコールの言葉にクリアーは驚き、声を出した。
「ええ!?」
 コールの言葉に、フィックスも驚きを隠せなかった。
「え!?」
 動揺しながらも、クリアーはお礼を言う。
「あ……ありがとう……」
 顔を赤くしているクリアーに、コールは笑顔で返した。そんな二人を見つつ、嬉しそうにしているクリアーに対してフィックスは思う。
(クリアーはコールに好意持ってるみたいだけど、コールもクリアーをちょっと良いなって思ってんのか……恋愛感情かどうかわかんねえけど……)
 フィックスは考えながら、さらにクリアーを見つめた。
(やっぱなんか……コールと反応違うのイラつく……俺にはあんな顔しないくせに……俺にもそんなかわいい顔……してみろっての)
 イライラの原因もわからず、ただただ、もやもやするフィックスだった。

 そうこうしているうちに、三人は無事に街に到着した。大きな石の城の周りを囲むように街が存在している。
「わー大きい街だね! 『まなびの街』だって!」
 近くにある看板を読みながら、興奮気味にクリアーは言った。
「そういやお前、村から出た事なかったな。五年も居たのに」
「五年ですか?」
 コールが少し驚いたように、フィックスに聞く。
「クリアーが村に来たのは五年前だな」
「五年前……」
 街に興味津々で、クリアーは二人のずっと前を歩いていた。
「フィックスさんクリアーの事、物を盗んだり旅人襲ったりして迷惑だって言ってましたけど、この間までずっと悪い人だと思ってたんですか?」
「いや! 男だとはずっと思ってたけど……最初はクリアーは大人しかったんだよ。カレン以外には近づかねえし、俺にもビビッてて……でも二週間前にブラックが泥棒に入って、そん時に目撃したけど何もできなかったのがよっぽど悔しかったんだろうな。そのあと急に人の荷物持つようになったりして、まあこれを泥棒に目覚めて盗みに走り出したと勘違いしたんだがな……」
「そうだったんですか」
(泥棒に目覚める???)
 フィックスは、先を歩いているクリアーを優しく見つめ、微笑みながら続ける。
「行動できる自分に、変わろうと思ったんだろうなー……」
 それを聞いて、コールもクリアーを見つめた。
(クリアー……)
 クリアーは額に手をかざしながら、遠くを楽しそうに眺めていた。
「わー色々あるー」

 街に入り、しばらく歩くと防具屋があった。
「あの店だよね? じゃあ行って来るね!」
 店に向かうクリアーを二人は見送る。
「……まてよ……あいつが買い物してるとこ村で見た事ねえぞ?」
「え?」
「カレンが必要な物買ってきてたからな…………なんか心配になってきた……ちょっと俺も行って来る! コールはここで待っててくれ!」
「はい」
 フィックスは走ってクリアーのあとを追いかけた。
(フィックスさん心配性だなあ。まあ、クリアー危なっかしいから、わかる気もするけど)
 被っているフードを整えながら、二人が店に入ったのを見ていたが、それに気を取られていたせいで、コールは速足の通行人とぶつかってしまった。
「あ! すみません」
 その時、フードがぶつかった衝撃で脱げてしまった。
 コールの顔を見た相手もフードを被っているが、なぜか無言のまま立ち止まっていた。
「……コール?」
「え?」
 相手もフードを取ると、現れたその姿は、垂れ目で長い黒髪が特徴の、優しそうでありながらも威厳のある、コールが警戒しなければいけない、この『月の城』のヴェリアス王だった。

「陛下!!」
「こいつを捉えろ!」
 潜んでいた数人の護衛に、コールはあっさり捕まってしまう。
「街の見回りに出てコールに会えるなんて、私は運が良い」
「……」

 その数分後、防具屋からフィックスとクリアーは出てきた。
「もー、買い物くらいできるよ! こどもじゃないんだからー!」
「お前なんて赤ん坊みてえなもんだろうが!」
「赤ちゃんじゃないし! ってコール!!」
「な!」
 そこには、顔を布で隠され、手を縄でしばられた状態で、城に連れていかれるコールの姿があった。
「見つかったのか、なんで?」
「コール助けないと!」
 走りだそうとするクリアーの肩を、フィックスは掴んだ。
「バカ! お前! 考えなしに動くな!!」
「だって!」
「どうせ城に連行するだろ、助けに行くぞ」
「うん!」

 コールは城に連行され、城の近くの二階建ての建物の一室に捕らえられていた。
「久しぶりだな、コール」
 ヴェリアス王がコールに話しかける。
「……」
「『千の力』を私の為に使うと誓えば放してやるぞ。協力するなら、金も地位も女も、好きなだけ渡そう」
 窓の外に、王とコールの会話を聞きながら、二人を助ける機会を伺って隠れている、フィックスとクリアーの姿があった。
「え? マジで? 俺、力あったら志願したい」
「何言ってるの……」
 少しでもクリアーの不安を拭おうと言った冗談だったが、クリアーは眉間にシワを寄せて見つめてくる。
「……冗談だって」
 フィックスは焦って目をそらし、王とコールの方に視線を向けた。
「『千の力』があれば、この城も街も、さらに強く、そして平和にできる。私は王としてなんとしても『千の力』がほしい。頼む、協力してくれ」
 真剣な眼差しで、ヴェリアスはコールに頼む。
「できません、ボクは……この力の使い道はもう決めているので」
 申し訳なさそうな顔でコールは答えた。
「コールボクって言ってる!」
「なんもわりい事してねえのに監禁してくる相手に、言葉正せるってあいつすげえな。オレなら切れてるわ」
 コールの心の広さに感心しながら、二人は様子を見続ける。
「どうしてもだめなのか?」
 少し強い口調で、ヴェリアスは語りかけた。
「……はい」
「なぜだ?」
 一度下を向き、何か考えながら、ヴェリアスの顔を見てコールは話し出す。
「ボクが『千の力』を使うのは、人を助けたいからです。奪ったり争ったりする為に力を使うつもりはありません」
「弱いままでは攻め込まれ負ける……それに悪を倒す為に力を使って何が悪い。それも守る方法のひとつではないか」
「……」
 コールは無言のまま、ヴェリアスを見つめる。
「お前も何かあれば、その力でねじ伏せるだろう?」
 その言葉に、コールは苦しそうな顔をした。
「……状況によりますが、極力争いに使いたくはありません」
「頑固だな……その力を人間に向けて使った事はあるか?」
 思いもよらぬ質問に、コールは目を見開き驚いた。
「……え? 怖すぎて無理です」
 首を横に振りながら、『千の力』を人に使ったところを想像し、青ざめるコール。
「まあ、人が岩みたいにバラバラになったら怖いわな」
「ボクもやだ……」
 それを聞いて、フィックスとクリアーも同じく青ざめていた。
 ヴェリアスは部屋をゆっくり歩きながら、話を続ける。
「『千の力』は発動は左手に限定され、手のひらを合わせた状態では使えない。左手を失っている場合のみ、右手でも発動できる。すぐに使うと威力は半分になるが速く出せ、溜めて使うと時間は三秒ほどかかるが最大の威力が出せる」
「?」
「私も色々調べているんだよ、『千の力』の事を。しかし、持ち主に会えたのはコールただ一人だけだ。力の持ち主はこうして捕まらないように、身を隠して生きているものばかりのようだからな」
「……」
 ヴェリアスはドアの前に立ち、振り返ってこう言った。
「まあ時間はある。ゆっくり考えるんだな」
 そしてそのまま、部屋を出ていった。その様子を見ていたクリアーは、フィックスを見る。
「今一人だよ? 助けないの?」
「昼間は人が多くて逃げきれない可能性が高い。助けるなら夜だ」

 数時間後、日はすっかり落ち、夜の闇が辺りを包んでいた。
 部屋の外に居る二人の兵士の会話が、ベッドの上に横になっているコールの耳に聞こえてきた。
「陛下焦ってるな!」
 もう一人の兵士が、静かに答える。
「他の城に『千の力』を使う者が志願でもしたら大変だからな」
「あんな力あったら誰も勝てねえよ!」
 そんな兵士の会話を聞きながら、コールはヴェリアスとはじめて会った時の事を思い出していた。

『うわあ!』
 帽子で顔を隠した人物が、街の水場に落ちそうになっている。
『大丈夫ですか!?』
 その場を通りかかったコールは、腕をつかみ、相手を助けた。
『すまない、助かった!』
『いえ』
『お礼に食事でもどうだ?』
『いえ! 大した事はしていませんから!』
『そうか? では普通に食事を一緒にしてくれないか? 一人では寂しいのでな』
『……はい』

 二人は街の公園の近くで食事をする事になり、近くの露店で買ったパンを、コールは相手に渡した。
『すまない買ってきてもらって』
『いえ』
『キミ、名前は?』
『……コールです』
 相手の雰囲気から、名前を言っても大丈夫だろう……と判断した。
『実は私は城の者でな、あまり人目にはつけないのだ。街の事を知る為に、たまに一人でウロウロしているのだが』
『そうなんですか』
『実際に自分の目で見ない事には、真実はわからない。人の話には嘘や勘違いなどがあったりして、真実ではない事も多い。悪気はなくとも……人は見たいものしか見えないものだからな』
 微笑みながら、コールは相手に返事をする。
『そうですね』
 好意的なコールの反応に、相手は嬉しそうに話し出す。
『私はこの城と街が好きだ。絶対にみんなを守りたいんだ』
 その意志に共感したコールは、自分の気持ちを伝える。
『オレも人を助けたり守りたいと思っているので、応援します』
 帽子で隠れた相手の顔の中で、唯一見えている口元が、コールの言葉を聞いてニッコリと動くのが見えた。
『ありがとう! 良い子だなコールは! ははは!』
 コールもつられて笑顔を返す。その時、一人の男が勢いよく近づいてきた。
『おい! お前! 金を出せ!』
『!? 賊か?』
 人目に付かないように、公園の端に居たので、目を付けられたようだ。
『こんな白昼堂々と……』
『さっさと出せ!』
 賊は帽子の男に刃物を振り下ろそうとする。
『な!』
 避けられないと帽子の男が思ったその瞬間、強い光がコールの左手から放たれる。
『!』
 強い光に戸惑い、賊が動きを止めた隙に、コールは『千の力』で刃物を破壊して、帽子の男を助けた。
『な、化け物!!』
 不思議な力に驚き、賊は一目散に逃げていった。
『コールその力は……『千の力』?』
『……』
 沈黙するコールに対し、男はゆっくりと帽子を取った。
『ヴェリアス王!!』
 帽子の下の姿が、城の者どころか、陛下であったことに驚きを隠せないコールは、硬直し、無言で相手を見つめた。
『その力があれば、私の目的は達成できる……お前……私の城に来い』
 いきなりの出来事に戸惑いながらも、コールは返事をする。
『すみません……旅をしながら人を助ける為に使うと決めているので……』
 陛下は断られた事に少し動揺を見せるが、何かを考えたのち、続けて話し出す。
『そうか……なら……無理やりにでも従わせるしかないな!』
 両手を伸ばし、陛下はコールを捕まえようとする。
『!!』
 コールは自分のマントを、陛下の頭に素早く被せた。
『な!』
 視界が奪われ、焦る陛下がマントを取ると、コールはいなくなっていた。
『くそ……逃げられたか……絶対に諦めんぞ……コール』

 ヴェリアスとの出会いを思い返し、コールは考える。
(陛下、正しい意志があるのに執着に負けてはいけない……あなたはきっと大丈夫な人だから)
 そう思った時、窓を叩く音が聞こえた。
「!」
「コール!」
 窓の外に、クリアーとフィックスの姿があった。
「クリアー! フィックスさん!」
「助けにきたよ!」
「ありがとう!」
 部屋の高い位置にある小窓が開いていたので、そこからフィックスが先に入る。
「監禁してる割には警備が手薄だな?」
 フィックスはコールの縄を切った。
 続けてクリアーが小窓から降り、フィックスが受け止める。
「わ!」
「お前……重……」
「フィックス!」
「はは!」
 二人のやり取りに、ホッとするコール。その時、ドアが開き、静かにヴェリアスが入ってきた。
「そいつらが仲間か?」
「陛下!?」
 フィックスとクリアーがコールの前に出て、武器を構える。
「まあ、窓に張り付いてたら普通バレるわな。泳がされてたわけだ」
 陛下はじっくりと二人を見る。
「そいつらも『千の力』が使えるのか?」
「二人は使えないし関係ない!」
「助けに来たなら関係はあるだろう。コールの決断を変更させる為に、利用させてもらおうか」
 ヴェリアスは剣を取り出し構える。
「……」
 コールはヴェリアスの足に、素早く左手を向けた。
「ほう、やはりピンチになれば力を人に向けるか。いいぞ、やってみろ。しかし足に向けるとはコールらしいな」
 コールの『千の力』が発動し、左手から強い光が放たれる。
「「コール!」」
 クリアーとフィックスが叫ぶ。
「……陛下、あなたが知らない事を、ひとつ教えます」
「?」
「この力は……持ち主が……」
 足元から視線を上げ、ヴェリアスを見るコール。
「破壊する対象を……」
 強いまなざしで相手を見つめ、大きな声で叫んだ。
「選択できる!!」
「何!?」
 ヴェリアスの足ではなく、足元の床が、激しい音を立てながら破壊されていく。
「ああっ! くっそおおお!」
 壊されてできた穴に、ヴェリアスはそのまま落ちていった。
「陛下ー!!」
 部屋の外に隠れていた兵士が、下の階に落ちたヴェリアスを助けに向かう。
「今のうちに逃げよう!」
「うん!」
 コールは『千の力』で壁を破壊し、フィックスとクリアーと共に、逃げる事に成功した。
「陛下ー! ご無事ですかー!?」
 ヴェリアスは穀物の中に落ち、ケガひとつしていなかった。
「私ではなく足元を……下の階が穀物置き場だと知っていて、このやり方をしたな……何がなんでも人間には使わないその意志、さすがだ! ぜひとも我が城の者にしたい!!」
 ヴェリアスは諦めが悪かった。
「絶対諦めんぞー!」
 そんな王の叫び声が響く中、なんとか城から脱出し、外を走る三人を、遠くから眺める者が居た。
「ん? あれ棒兄ちゃん達じゃない? よく見るなあ」
 泥棒のブラックは、城のお宝を物色していたが、運悪く見回りの兵士と遭遇してしまった。
「あ! 泥棒ー!」
「わー!」
 慌てたブラックは、何も取らずにその場から逃げ出した。

 ブラックに見られていた事など知らないコール達は、城の庭から街の方へと走っていた。
「やっと逃げれたな! 一回宿に荷物取りに行って、探されると困るからすぐ街を出ようぜ」
「はい。オレの荷物は、着てる服とお金以外、全部取られてしまいましたけど……」
 荷物を失ったコールにフィックスが言う。
「追いはぎ陛下だな……」
「追いはぎ……」
「てか、あんなすごい力で足元壊したのに、衝撃波で一緒に足が吹き飛ぶとかないのか??」
 不思議そうな顔でフィックスが聞く。
「あ、『千の力』は、どうも選択した対象を弱体化させてから破壊してるみたいで、実際はそんな大きな力が起きてはいないみたいなんですよ」
「弱体化?」
 コールは視線を上に向けながら、話を続ける。
「さっきの場合は床の石を、どうやってるのかわからないけど、小さな力で壊れるように内部を弱体化したあとに破壊してるので、衝撃波とかはあんまりないんです」
「へえー、じゃあ大体なんでも壊せるな、『千の力』って魔法みたいな感じなんだなー……」
「他にもバリアみたいのがあって、そっちは力を凝縮して出してるみたいです」
「凝縮と解放か……陰と陽って感じでなんかかっこいいな……しかしやばい奴だった……」
 眉間にシワを寄せ、コールは続ける。
「いえ。陛下は本気でオレを捕らえるつもりはなかった」
「え?」
「高い塔に幽閉していたら、逃げも助けられもしなかったのに、低い建物に捕らえていた」
「ああ、そういえば」
「力で抑えつける事をまだ迷ってる段階なんだと思います。元々優しい人だから……立場や時と場合によっては必要な事もあるとは思うけど、平和の為に、争わない他の方法を探しているのかもしれない」
「ふーん、どうなるかは本人次第って事か?」
「はい。人の気持ちはコロコロ変わるけど、意志はそう簡単には変わらない。善でも……悪でも……」
 そう言ったコールの表情は、少し暗く曇ったようだった。
(コール、一体お前、何を見てきたんだ?)
 それを聞いていたクリアーが、コールに話しかける。
「ボクは人の役に立ちたい! これがボクの意志!」
「うん!」
 コールとクリアーは笑顔で見つめ合った。そんな二人を見てフィックスは考える。
(役にねー、オレはどうだろうな……)
 それぞれの思いが交差する中、コールの『千の力』の残りカウント数は、あと五十二となった……

☆おまけ☆ 4コマ漫画&イラスト


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